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2012年11月3日、東京大学本郷キャンパス医学教育研究棟第1・2セミナー室にて、東京大学SPH同窓会総会、合わせて、第2回東大・京大・帝京大合同開催によるSPH同窓会サロンが行われました。京都大学SPHおよび帝京大学SPHの卒業生や在学生とのサロン合同開催は、6月のSPH同窓会サロンに引き続き2回目となりました。前回、盛況のうちに終わったサロンでは、幅広いSPH関係者との交流が生まれ、各大学のSPH出身者がもつ意見や問題意識を共有する機会となりました。その際に共有された「のりしろ」という言葉をキーワードとして、Master of Public Health(MPH)ホルダーが担う役割について更に深めるべく、今回のサロンのテーマが選ばれました。


 東京大学SPH同窓会の林伸宇理事の司会により、サロンが始められました。
 まず井上真智子会長からの挨拶があり、今回のテーマとして「研究と実践をつなぐ‘のりしろ’としてのMPH」があげられた経緯が説明されました。また本サロンでは、各SPHの卒業生の方々が、ご多忙の中、ご講演を快諾してくださいました。卒業生の方々が、MPHホルダーとして現在どんな仕事をしているか、”つなぐ”役割の大切さ、現場で感じる問題などをお話しいただき、グループディスカッションの題材となる課題提起をしていただく旨が伝えられました。


“あなたのニッチェは何ですか”

東京大学SPH2期生:松居宏樹さん

 めのご講演は、現在東京大学医学部付属病院国立大学病院データベースセンターの特任助教である、松居宏樹さんでした。なお、松居さんは今年度の東大SPH同窓会理事の一人としてサロンの運営に携わっています。まず今回のテーマになぜ「のりしろ」の話をするに至ったかを、医療と社会、臨床と研究に関わる専門分野同志をつなぐ架け橋との意味でご説明いただきました。

 SPH在学中に学んだ医学データの統計解析や医療情報システム、医療経済など実践に役立つ授業の内容や、理学療法士のご職歴・ご経験を踏まえて取り組まれた課題研究についてご紹介いただきました。医療の政策面や、一対多数を相手にするために必要な技術、システム構造など、SPHを通して習得したことから、未知の問題に対する対応の仕方を学ばれたとおっしゃっていました。さらにお仕事の内容は、国立大学病院の病院機能指標に関する内容や、DPCデータ調査の収集、大学間ベンチマークの指標作成や評価など、業務としても、松居さんが担う役割としても、非常に多岐にわたることが伺えました。

 SPHの学びが生かされていることとして、特に医療情報・統計を扱う調査業務や、病院機能指標における各病院のインパクトファクター集計など、新規調査手法の開発をご紹介いただきました。またご自身としても、データベースを用いたアウトカム研究を続けていらっしゃるそうです。公衆衛生は領域の形が定まらない分、様々なアンテナを張りながら、情報を整理・吸収し、それを応用する仕事を模索していく必要性をお話しされていました。そのために、一大領域どうしをつなぐ作業が「のりしろ」であり、業務内容や研究領域としても、ご自身の「ニッチェ」と通じるものがあるのではないか、と後のディスカッションの課題を挙げてくださいました。


“SPH魂を持った実務者が中心となることで研究・事業がスムーズに”

東京大学SPH4期生:原 雄二郎さん

 2番目の演者として、SPHを卒業後、株式会社 Ds’sメンタルヘルス・ラボ を起業され、その代表取締役を務めていらっしゃる原さんにご講演いただきました。表題は「SPHマインドと起業と私」として、ご自身の精神科での臨床経験からSPHへの入学、卒後起業にいたるまでや現在の活動内容などを、現場で感じられた問題意識や課題を含めながらお話しいただきました。

 さんは、精神科医師として、病院ごとに異なる臨床の様々な側面をご覧になり、またどの病院でも、病気が完治して診療を終えることがなかなかないというご実感をお持ちになったとのことでした。精神科の産業医のオファーを機会として、精神科医の技術と産業保健、また予防医学の重要性を合わせて考えるようになり、それがSPH受験のきっかけとなったそうです。SPHでは職場のメンタルヘルスコースに参加されており、産業医が働く現場での困りごとや、十分なエビデンスに基づかない様々な障壁があることをご説明いただきました。

 方で、SPHマインドを持った研究者により、数多くの方法ですばらしいエビデンスや実践方法が生み出されていることを学ばれたそうです。この研究と現場をつなぐ場をつくろうという理念のもと、起業を決意されました。活動内容としては、職場のメンタルヘルス対策に取り組もうとする企業に対して、医師によるコンサルティングから実務、既存の産業医へのスーパーバイザーなど、多くの活動に意欲的に取り組まれておられます。

 業された前後のプラスの面に加え、ご実感されるマイナス面もお話しされつつも、事業と研究とのフローをつくりたいという今後の展望を明確に示していただきました。企業のブランディングやEAPなどへの支援業界全体の底上げ、SPH学生への研修や活躍の場の提供など、「夢がある」と語られる原さんの姿勢には「SPHマインド」が強く感じられました。最後にディスカッションの課題として、「現場の課題」「SPHで学んだこと」「解決方法(主体的・具体的・卒後どうするか)」を、ご自身の例をもとに挙げていただきました。


“組織の『仕切り』を行うとは”

松田 浩幸さん:帝京大学SPH 1期生

 後に、今年の3月に帝京大学SPHを卒業され、現在TARC [Teikyo Academic Research Center] でCOOを務めていらっしゃる松田さんにご講演いただきました。インプットの連続だったSPHの1年間で、それ以前には考えたことのない自分の将来や、社会への貢献の方法を知ったことから、卒業後、ご自身はどの方法をとろうかと選択に迷われたそうです。その選択肢には、PhDやMBAを取得して研究の道を究めたり、前職とは違う専門をもって転職をしたり、さらにBOPビジネスやNPOの起業などが考えられます。実際に同期の方々には、それぞれの選択肢を進まれた方がいらしたそうです。

 方で松田さんは、これらとはまた別の「4つ目の出口」として、前職の職場での「社内起業」を行いました。帝京大学の臨床研究センターでの新規事業の立ち上げをSPH在学中より進めていらっしゃいました。SPH生の中にはもともといた職場に戻るつもりでいる方もいらっしゃるため、前職に復職しながらも、新しい事業を準備する授業や方法論が参考になるのでは、とおっしゃっていました。

 在の事業では、臨床の医師が持つ素朴な疑問を大切にして、現場からの疑問に答えられるような臨床研究を目指されているそうです。また組織運営の面では、組織の構築、業務設計、それらを担う役割分担が重要であり、公衆衛生を知る立場の者が「仕切り」やリーダーシップをとるメリットを提案されていらっしゃいました。また日々ご自身が直面されている現場の問題として、長期にわたる研究への組織のモチベーション維持、及び、研究の価値に見合う予算がなかなかあてられない現状を、実体験をもってお話しいただきました。


■グループディスカッションおよびパネルディスカッション

「のりしろとなるために解決すべき課題とは」

 休憩をはさんだ後に、参加者が4つに分かれ、グループディスカッションが行われました。3名の演者から投げかけられた課題の中から、各グループで一つの課題について話し合われ、模造紙に各自の意見や、イメージする図などが書き込まれました。20分の自由なディスカッションの後、各班で話し合われた内容を全員で共有し、パネラーとしてご参加いただいた松居さん、松田さんよりご意見をいただきました。

グループディスカッションからは、参加者から賛成の声が多いコメントが見られました。「壊れにくく高性能な『ハブ』として、優秀な組織や能力をつなぐ機能を備える」「多様性をまとめる存在」「優秀なトップを選ぶ」「黒子としてマネジメントする」「MPHホルダーはそれぞれのニッチェをもつ」「のりしろの必要性を共有しているのがSPHである」など、サロンの時間いっぱいまで活発な議論が続きました。


■つづきは懇親会へ

 サロン終了後は、本郷キャンパス近辺の懇親会会場へと場所を移しました。サロン中に伺えなかった質問を講演者に尋ねたり、ディスカッションのつづきを行ったりと、和やかな雰囲気で交流を深めることができました。サロンの回を重ねることにより、合同サロンを機会に知り合った各大学のSPH生が、よりお互いの現状を共有しやすくなっている様子がうかがえました。

■ さらなる交流・学びの場として

 この度6月に引き続き、3つの大学のSPH同窓会による合同開催ができましたこと、理事一同より深く感謝申し上げます。今後も、各大学のSPH同窓生の皆様にご活用いただけるサロンを企画してまいりたいと思います。これからもどうぞご期待ください。